増刷された又吉、召喚されたヒロミ : 先週みたテレビ(3月2月~8日)
『ニュースウオッチ9』(3月6日)
又吉「ボクは考えたり書いたりするのが好きで、仕事やからやるんじゃなくて、やらずにはおれないというか」/『ニュースウォッチ9』3/6
— 飲用 (@inyou_te) 2015, 3月 6
デビュー小説が掲載された文芸誌が創刊以来はじめての増刷。
そんなピースの又吉直樹が先週6日、
いわく、又吉にとって書くことは仕事ではなく、「やらずにはおれない」ことである。
そしてそういう意味で、芸人と小説家は仕事として非常に近いところにある。
書くこととお笑いも一緒で、芸人になる前からネタ書いたりとか、お芝居の脚本直したりとか、それこそ詩みたいなん書いたりとか。なんか考えて発表するの好きで。それが全部が芸人の仕事やと思ってたんで。そういう意味でいうと、書くことも芸人の仕事に近いとは思うんですけどね。*1
あるいは、先週9日の『ボクらの時代』では、
普段から交流があるという芥川賞作家・中村文則、直木賞作家・西加奈子と又吉が鼎談していた。
いわく、又吉はネタがウケるか否かより、「とりあえず自分が考えたことをやれるのがうれしい」。
西は又吉のそんな芸人としての動機づけについて、
「発露の方がでかいってことだよね、反応より」と表現していた。
NSCって養成所があるんですけど、全国から学校でおもろかったって言われた人が集まってくるじゃないですか。ネタ見せでウケへんかったときのショックがでかくて、割とすぐみんなやめていくんですけど、残るのボクみたいなタイプなんですよ。期待してないというか、ウケることに対して。オタク気質じゃないですけど、とりあえず自分が考えたことをやれるのが嬉しいっていう。*2
あるいは、去年放送されていた『オイコノミア』にて。
学生時代に抱いていた仕事に対するイメージについて、次のように振り返っていた。
ボクも学生時代、ホントに自分が社会に出て会社で働くイメージって全くわかなくって。たとえば、「又吉」っていう職業があれば最高やったんですよ。世界の人口と同じ数だけの職業があって、将来みんなそれになれば、それでちゃんと生活していけるならそれでいいじゃないですか。じゃなくて、世界の人口よりもだいぶ少なくなった選択肢選ばなあかんから、「いや、オレの無いで」みたいな。*3
なるほど、又吉は「自分が考えたことをやること」をただただ「発露」した結果、
芸人でもあり小説家でもあるような、あるいは他の何かにも展開していきそうな、
「又吉」という職業に無事到達した。
『5時に夢中!』(3月6日)
みの「言いたいことを言うのがぼくらの役目ですから。間違ったことを言ったら訂正しなきゃいけないですよ。でも自分の思いをぶつけるのはあたりまえのことで」/『5時に夢中』3/6
— 飲用 (@inyou_te) 2015, 3月 6
だがしかし、ただただ自分の思いを「発露」することが、
いろいろと衝突を生むこともあったりするので難しいところではある。
MCを務めるレギュラー番組をいまも抱えつつも、
2015年3月9日現在、Wikipediaでは「日本の実業家」としてのみ紹介されている*5、
そんな「みのもんた」という職業の行方にしばし思いを馳せる。
『ロンドンハーツ』(3月3日)
三村「オレもがんばったでしょ?」 ヒロミ「いやー、がんばったね」/『ロンドンハーツ』3/3
— 飲用 (@inyou_te) 2015, 3月 4
で、同じくWikipediaでは、
「日本のお笑いタレント、司会者、ラジオパーソナリティ、実業家、トライアスロン競技者」
と紹介されているヒロミ*6。
先週3日の『ロンドンハーツ』では、
ヒロミのことが嫌いだった*7というさまぁ~ずの三村マサカズと、
お酒を飲み交わしていた。
最近改めてテレビでの露出を増やしているヒロミ。
ゲスト出演する番組では「復活」という言葉で紹介されたりもする*8。
で、そんなヒロミが最近のテレビで負っている役割のひとつは、
コンプライアンスとかクレームとかでいろいろやりにくくなっている、みたいな、
無難な情報番組化が進んでやりたいことができにくくなっている、みたいな、
そんなことがしばしば言われたりする最近のバラエティ番組の、
本来のあるべき姿について語る、みたいなことなのだろうと思う。
そこでヒロミが提示している“本来あるべき姿”が、
どこまで“本来あるべき姿”として適切なのかはちょっとよくわからない。
それに、ヒロミが語っている内容を、
“本来あるべき姿”という文脈に置き直しているのは、
番組だったり、それをみている視聴者だったり、
あるいは両者の視線の交錯のなかでだったりするのだろう。
でも、テレビのなかでテレビのあり方について語ったり、
バラエティ番組のなかでバラエティ番組の来し方行く末について語ったり、
そういう省察的なトークがストレートにテレビのこちら側にお届けされる、
そんなバラエティ番組の最近の一部の傾向にマッチしているのだろうなとは思う。
つまり、現在のバラエティ番組を少し昔の地点から照らし返す、
過去からの使者としてヒロミが召喚されているのだろう。
テレビのなかで一度死んでそのまま冷凍保存されていた存在が、
記憶は当時のままに時をこえて解凍されて蘇ったという意味では、
過去からの使者=死者として召喚されていると言ってもいいかもしれない。
だから、確かにヒロミの言うように、
今までテレビ作ってきた人たちは「どっちかって言うとまともな人じゃない」かもしれない。
そして、ヒロミがテレビにいなかったこの10年は、
必要以上に「正しくしなきゃいけない時代」だったのかもしれない*9。
でも、そういう時代の空気を「こじ開けたのが、やっぱ有吉と(坂上)忍だと思うのね」と指摘し*10
「オレがちょっとやる気をだしたのは有吉と(坂上)忍のせいだよ」*11と語る、
そんなヒロミに抱かれているかもしれない需給関係、
つまり、毒舌な人というか当たりの強い人というかはっきりものを言う人というか、
ヒロミに関しておそらく成立していない。
なるほどヒロミは「復活」した。ただしゾンビとして。