さかなクンの道楽、又吉の創作:先週みたテレビ(7月20日~26日)

『SWITCHインタビュー 達人達』(7月25日) 

 

 「前方後円墳(の土)を牛乳瓶に詰めて横に倒したらハワイまで全部つながる長さになるかどうか」

 これを計算するために小学校で算数をがんばったという歴史学者の磯田道史*1

 焼き肉もときどき食べるけれど、「お魚じゃないと胸焼けしやすい」というさかなクン*2

 25日放送の『SWITCHインタビュー 達人達』は、そんな2人の対談だった。

 

 番組のエンディング近く、磯田はさかなクンの魅力をひと言で表現する。

 さかなクンには「無償の遊戯性」があるのだ、と。

 それはつまり、損得の壁を乗り越える「道楽」なのだ、と*3

 

 だがしかし、磯田のこの言葉に続いて、さかなクンは次のように語る。

 自分だけが満足していては「アマチュア」なのだ、と。

 

オタクっていうのは自分自身が納得して、自分自身が喜びを得て追求していくと、いろんなことが見えていろんな喜びがあるんですけど、だけど、1人だけで自己満足してるともったいないって段々思ってくるんですね。自己満足してる段階では、まだアマチュアの域を超えないと思うんです。この感動をみんなで共有しないきゃもったいないじゃないかっていうところに変わってくると、それがお仕事にもつながったり、食べていけるようになっていくのかなぁと。*4

 

 中学生のときに水槽学部だと勘違いして吹奏楽部に入部した*5

 という逸話があるぐらい周囲のすべてを魚の話題にリンクさせるさかなクン

 そういう偏愛はしばしば私的な世界に閉じこもってしまいがちなのかもしれないけれど、

 だけどさかなクンは、「この感動をみんなで共有しなきゃもったいない」という方向へ向かう。

 

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 自分がおもしろいと思うことを、外の誰かにも届けようとするさかなクン

 さかなクンの「無償の遊戯性」は、他者と「おもしろい」を共有することへと開かれている。

 

『Face To Face』(7月20日)

 

 第153回芥川賞を受賞したピースの又吉直樹

 受賞後に放送された『情熱大陸』では、

 カラオケボックスでの受賞の連絡の電話を受けた瞬間とか、

 そこから会見場に向かうタクシーの車内などが記録されていたけれど、

 又吉が執筆のために借りている、下積み時代と同じ1K風呂なしの部屋なども紹介されていて、

 その部屋で思考をめぐらせながら番組スタッフの質問に答える又吉は、

 なんだか文豪なポーズも決まっているようにみえた。

 

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 で、特にNHKを中心に、

 受賞前に又吉が出演していた番組が再放送されたりとかしていて、

 そのひとつが、20日に放送された『Face To Face』。

 これはもともとNHKの国際放送・NHK WORLDで放送されている、

 ロバート・キャンベルが聞き手を務めるインタビュー番組らしいのだけれど*8

 芥川賞受賞から4日後、又吉がゲストとして出演した回をNHK総合のほうで再放送していた。

 

 番組のなかで又吉が一貫して語っていたことは、自分の外に出ること、だ。

 

 たとえば、小説『火花』の執筆で注意していたのは、

 それが芸人の世界の話、「お笑い論」にとどまるのではなくて、

 「他のテーマとか他の職業の人たちに置き換えることが可能か」という点だったという。

 

 あるいは又吉は、完全にプロットを立ててコントや小説を考えてしまうと、

 「ボクがもってる知識の範疇におさまってしまう」し、

 「それってきっとボクがつくれるようなことでしかない」ので、

 その壁を超えるためには、「何かに対する反応」が必要だと言う。

 では、その「何か」とは何か。それはひとつに、自分の内側から出てきた言葉だ。

 「自分で書いた言葉に自分で驚きながら次書いていけば、外に出れるはずなんですよね」*9

 

 さらに言えば、自分ではない誰かが、新しい言葉を自分のなかから引き出してくれる。

 

友だちと話してたり、友だちに相談されたり後輩に相談されたりしたときに、しゃべってるときに、気がついたら自分でもびっくりするようないいこと言ってることがあるんですよ。いままでオレそんなこと思ったことなかったのに。それってなんでこんなこと言えたんやろうと思ったら、ひとりじゃ絶対言えないんですよね。自分の意識とか自分の能力の外に出してくれるものとのぶつかりあいを常に…。*10

 

 おもしろいコントなり小説なりをつくるために、

 自分の外側の誰かと出会い、自分の内側の何かと出会い直す又吉。

 又吉の創作は、他者から「おもしろい」を問い直されることに開かれている。

 

 海洋立国推進功労者*11が語る、他者と感覚を共有すること。

 第153回芥川賞作家が語る、他者から感覚を問い直されること。

 どちらも他者とのつながりを志向しているのだろうけれど、

 前者は「おなじ」へと向かい、後者は「ちがい」へと向かう。

 いずれにしても、そんな2人が映るテレビのこちら側は、少なくともぼくは、

 テレビの向こう側と感覚が共有できて、

 あるいは、テレビの向こう側から感覚を問い直されて、

 楽しかったりするのでした。