テレビ日記・追記(6月2日~8日)

 日刊サイゾーで1週間のテレビを振り返る連載を書かせてもらっているのだけれど、ときどき、分量的・文脈的に本文に収められなかった文章の切れ端みたいなものが出てくる。もったいないので、追記としてブログで公開する。そういうエントリー。

 

 今回は、『脱力タイムズ』『99人の壁』、そして山里亮太の結婚について、「クイズ」や「問い」「答え」といったキーワードでまとめた話の続き。

 

 

佐藤二朗「さて、お父さんは次のうちどれでしょう?」

 

 毎回放送を楽しみにしている『99人の壁』(フジテレビ系)。その8日の放送では、ちょっと痺れる「イントロ」クイズが出た。それがどんな「問い」だったかは、本文に書いた。過去に出題された数多のイントロクイズは、この1問のための伏線だった。前置きだった。それこそ「イントロ」だった。そう言いたくなるような、エポックな「問い」だった。

 

 その『99人の壁』で進行役を務める佐藤二朗が、7日の『あさイチ』(NHK総合)に出演。『壁』での自身の立ち位置について語っていた。いわく、自分がやっているのはMCではない。

 

「あれは主宰です。主宰を演じてるんです。クイズ闘技場の主宰を演じてるんです」

 

 トークは佐藤のプライベートにも及ぶ。「最近お子さんに言われて一番パンチの効いたことがあったら教えてほしいです」。そんな視聴者からの質問を受け、まだ小さい息子とのこんなエピソードを披露していた。

 

「三択が流行った時期があって、息子がね。『さて、お父さんは次のうちどれでしょう? 1番、人間。2番、男。3番、ブサイク』って言われたことある」

 

 さて、いつもは「主宰」として挑戦者に立ち会う佐藤が、挑戦者として突きつけられたこのクイズ。ジャンルは「お父さん」だ。3択のうち、正しい「答え」はどれなのだろうか?

 

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明石家さんま「正解いらんねん」

 

 8日放送の『モモコのOH!ソレ!み~よ!』(関西テレビ)。中川家の2人がゲスト出演し、明石家さんまについて語っていた。兄の剛は最近、さんまの観察日記をつけているらしい。その日記の成果は、『さんまのお笑い向上委員会』で披露されている、さんまのモノマネにつながっているのかもしれない(最近はあまり見かけないが)。

 

 剛は語る。さんまとの雑談で、「アレなんやったっけ?」みたいな話になったことがある。そのとき、スマホで「答え」を検索しようとするマネージャーを、さんまが次のように言って止めた。

 

「正解いらんねん。いま、『アレなんやったっけ?』トークで楽しんでるから、正解出すな。終わってまうから」

 

 正解いらんねん。バラエティ番組で、さんまの口からよく聞く言葉だ。この教えは、子役のときからさんまにバラエティのイロハを教えられた、内山信二にも刷り込まれている。

 

「最近の人たちはね、いろいろ調べすぎです。別に言ったことがすべて正しいわけじゃなくて、いま言ったことをとりあえず楽しめばいいじゃないですか。悪いクセですよ、すぐ調べるっていうね。これがね、ホント笑いを狭めてる」(『しくじり先生 俺みたいになるな!!SP』2016年6月27日)

 

 内山は指摘する。最近の人たちは「答え」をすぐに調べすぎる。「アレなんやったっけ?」という「問い」の「答え」を検索で確定してしまい、「答え」があやふやなまま進行するトークを楽しめない。だから、さんまは嘆く。

 

「正論はいらんねん。正論をタテにしゃべるなんて、トークじゃない」(『さんまのまんま』2014年10月5日)

 

 「答え」は、トークのプロセス自体にある。どこか自分たちの外にあるのではなく、自分たちの中から生み出していくものだ。そして、「答え」の妥当性は「正しさ」ではなく「楽しさ」で測られる。そんな倫理が、さんまを貫いているように見える。「正論」や「論破」や「エビデンス」に拘束されるコミュニケーションからの解放。そんなものを、読み取ってしまいたくもなる。

 

 ただ、この倫理を過度に適用すると、また違った拘束が生じそうだけれど*1……それはまた、別のお話。

 

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 冒頭の「問い」に戻ろう。佐藤二朗は人間か、男か、ブサイクか。息子が出したこの3択の「答え」は何か。さんまの話をふまえるならば、この3つ以外のところにも「答え」はある。他愛のないクイズを出し合うような、父親と息子のやり取り。あるいは、そんな関係を築いてきたプロセス。「答え」はむしろ、そこにあるのかもしれない。

 

 息子の3択にどう答えるのか。近江アナが尋ねると、佐藤は「全部正解」と笑った。

 

*1:「楽しさ」の「正しさ」への反転とか、「コミュ力」による序列化とか、「空気」による拘束とか。