テレビ日記・追記(10月27日~11月2日):芸能人の肩書きをめぐって

 日刊サイゾーで1週間のテレビを振り返る「テレビ日記」という連載を書かせてもらっているのだけれど、ときどき、分量的・文脈的に本文に収められなかった話題が出てくる。それをブログで記事にするという落穂拾い的なエントリー。題して「テレビ日記・追記」。

 

 今回は、『情熱大陸』の所ジョージの言葉を入口に、芸能人の肩書き問題について書いた話の続き。

 

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いとうせいこう「作家って名乗ることが多いですね、近頃は」

 

 10月27日の『情熱大陸』(TBS系)で、自身の肩書きを問われた所ジョージは次のように答えた。

 

「テレビの人でいいよ。テレビに向かって何かやるんだから」

 

 本文で書いたように、もちろん所はただ単にテレビに映っているという意味での「テレビの人」ではないだろう。テレビに映る自身を客観視し、その客観的なイメージをカメラの前で完璧にコントロールする。そんな所は、卓越したテレビでのパフォーマンスを体得している人という意味での特別な「テレビの人」だと言えると思う。いや、所自身は、単にテレビに映っているという意味で「テレビの人」と自称したような気がするけれど。

 

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 所と同様、多岐にわたる活動を繰り広げている芸能人のひとりに、いとうせいこうがいる。日本語ラップのパイオニアにして、作家、芸人、俳優、作詞家、編集者、司会者など幅広く活動するいとう。ベランダーであり、テープカッターであり、スライダーズでもある。最近は、NGOの「国境なき医師団」を取材し紹介する活動もしている。

 

 そんなマルチタレントの極北であるところのいとうが、10月29日の『ごごナマ』(NHK総合)に出演。自身の肩書きを問われて、次のように語った。

 

「ボクはもうこのごろはもう、いろんなものを作るから、作家なんだっていう。文章以外も作ってるから。クリエイターだってそういう意味じゃないですか。だから作家って名乗ることが多いですね、近頃は」

 

 いろいろなものを作る人という意味で自分は「作家」だといういとう。司会の船越英一郎に「本職とかっていうのは一体あるものなんですかね? いとうさんにとって」と重ねて問われ、さらにこう応じた。

 

「っていうか、まず、ボクの小さいころみてたテレビの中には、大橋巨泉さんがいて。『巨泉』自体が俳句の名前ですからね。それで小沢昭一さんがいて、永六輔さんがいて、青島幸男さんがいてっていう。全員いろんなことやってる。こんな(自分の)ような連中ですよ。だからボクはもう、これがもう、芸能界の真っすぐ、真芯のところにいると思ってる」

 

 大橋巨泉永六輔の系譜に自身を位置づけるいとうの矜持。なるほど、かつてテレビの中心にいた人たちは、本職がなんなのかわからないような人だった。そしてそういう人たちが、まさに「テレビの人」なのだった。

 

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 別のところでいとうは、自身の肩書きについてこんなふうにも語っていた。

 

「(自分の肩書きは)やっぱり作家って言うしかないよね。もの作るわけじゃないですか。それだけは変わらないわけだから。でも、作るだけじゃなくて人にも干渉したくなるから。根が編集者だからやっぱり。結局、作家っていっても自分を作家として使ってるんだと思うよ」(『ボクらの時代』2013年4月28日)

 

 多岐にわたって何かを作り出す「作家」と、それをプロデュースしコントロールする「編集者」の往復運動。所も含めて「テレビの人」たちがテレビの中でやってきたことは、そういうふうに表現できるのかもしれない。

 

 加藤綾菜「ファミレスに、カトちゃんと……」

 

 どういう意味で「テレビの人」と呼ぶかどうかはともかくとして、テレビで活躍する芸能人のほとんどは、ひとつの肩書きにとどまらないさまざまな活動をしている。

 

 先週のテレビの中からざっとあげてみても、モデルの市川紗椰が日本の鉄道を英語で海外に紹介したいと語っていたり、フィギュアスケーター浅田真央がバカ殿と黒ひげ危機一髪をしていたり、レスリング選手の浜口京子コボちゃんの4コマの続きを描いていたり、俳優の松岡茉優が芸人に混じってスターターピストルの扮装をして笑いをとっていたり、元大統領夫人であるところのデヴィ夫人が、砂漠を裸足で走って熱い熱いとリアクションをとったりしていた。

 

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 あるいは、スポーツタレントの武井壮が俳句を詠んだり、俳優の陣内孝則がお笑いの賞レースの審査員をやっていたり、芸人のおぎやはぎ・小木がドラマで松下由樹の夫役を演じていたり、芸人の伊集院光が哲学者・西田幾多郎の『善の研究』を読み解いていたり、東大生の松丸亮吾が旅ロケをしたり、農場経営者の田中義剛がひな壇でトークをしていたりした。ブレイク時から「いつ干されてもいい」と閉店セールをし続ける俳優の坂上忍がそつのない進行で司会者に定着し、もう何年も経つ。

 

 で、10月27日の『マルコポロリ!』(関西テレビ)に加藤彩菜が出演していた。加藤茶と45歳の年の差で結婚し注目を浴びた加藤彩菜。理不尽なバッシングもあったけれど、最近は仲の良い鈴木奈々と同じ事務所に所属し、タレント活動もしている。

 

 学生時代に彩菜がアルバイトをしていた割烹料理屋で、2人は出会った。茶はそこの常連だったのだ。茶が電話番号を彩菜に渡したところから、親子かそれ以上の年齢差を越えた交際がスタートする。

 

 しかし、その交際は少し変則的なものでもあったようだ。

 

 初めて茶と食事に行ったときのことを、彩菜は次のように振り返る。深夜12時に銀座の飲み屋が終わり、そこから徹夜で麻雀をしていた茶。朝5時に彩菜をファミレスに呼び出した。しかし、到着した彩菜を待っていたのは、茶だけではなかった。

 

「朝5時にここの住所に来てって行くったら(…)ファミレスに、カトちゃんと左とん平さんと小野ヤスシさんが」

 

 映画を茶と見に行くこともあった。

 

 「映画を見に行こうってカトちゃんに誘っていただいて。なぜか戦争映画だったんですよ。大好きなんで、一緒に2人になりたいんで、行くって言って銀座まで行ったんですよ。で、予告終わって本編始まるときに、とん平さんがふらっと来て」

 

 さらに茶の誕生日、ホテルオークラのバーで交際を正式に申し込まれた。

 

 「嬉しくて、チュってしたんですよ。そしたらフルーツ盛りが出てきたんですよ。フルーツ盛りが来た後に、小野ヤスシさんと左とん平さんがサプライズで(登場した)」

 

 茶とデートをするたびに、左とん平小野ヤスシが着いてくる。テレビショッピングでフライパンを買ったらお値段据え置きで着いてくる鍋のようだ。

 

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 番組では茶と彩菜の間の「障壁」として左とん平小野ヤスシのことを取り上げていたけれど、もちろんそんなことはないだろう。29日に『5時に夢中!』(TOKYO MX)に出演していた彩菜は、自分にとって茶は新しい世界を見せてくれた存在だとして、次のように語っていた。

 

ふかわ「新しい世界、どんな世界を?」

綾菜「大学生のときに出会ったんですけど、大学の友だちと全く違う友だちじゃないですか、周りの方が」

ふかわ「特に印象に残ってるのは?」

彩菜左とん平さんと小野ヤスシさん」

 

 すべてが加藤茶 With Tに向けて一直線にオチていくトーク。到達地点はわかっているのにやはり笑ってしまうのはなぜだろう。

 

 「カトちゃん漫談家」としての加藤綾菜小野ヤスシ左とん平もそれぞれ鬼籍に入ったが、最近の茶は井上順と密に付き合うようになったそうなので、新たな話題もありそうだ。加藤綾菜と千鳥・大悟がカトちゃんとケンちゃんのごきげんな近況をトークし合うテレビ。そんなものを、思い描いてみたりもした。