先週みたテレビ(1月19日~25日)
『デート』第1話(1月19日)
「レベルの低いテレビドラマやガキ相手の映画ばかりみて育ったんだろ。現代の幼稚な文化に毒されるとこうなるという典型例だ」/『デート』第1話
— 飲用 (@inyou_te) 2015, 1月 19
人口減少社会が云々、みたいなことが最近メディアでよく言われていて、
それはたとえば、人口減少の原因と思わしきもののひとつは、
みんなが東京周辺に集まって子どもが生まれにくくなっていることにあるので、
東京から地方への人の流れを生み出しましょう、とか、
地方から東京への人の流れを堰き止めましょう、とか、
そんな感じの話だったりする。
地方から東京への移動ということで言えば、
テレビを通じて東京から地方へとお届けされる電波のあれこれは、
ときに地方の人間を東京に惹きつける。
たとえば、先週21日の『ごきげんよう』で光浦靖子が、
「トレンディドラマが全盛期だったんで。何の根拠もないけど東京にいけば全てが叶うと思って」*1
というような話をしていた。
なるほど、トレンディドラマはかつて、
地方出身者に東京への移動を動機づける物語を供給していたのかもしれない。
で、トレンディドラマといえばひとまず月9。
そんな月9の枠で先週19日から始まったドラマ『デート』は、
「東京から一番近くて、一番遠い都会・横浜」*2を舞台とした、
高等遊民な文系男性と、合理主義が人の形をしたような理系女性、
どちらも恋愛を実践する感覚に乏しい2人の関係を描いた恋愛ドラマだけれど、
戸建ての実家暮らしだったり戸建ての実家の(おそらく)近くに住んでいたりするこの2人は、
たぶんどちらも首都圏からあまり移動しない人生を送ってきたのだと思う。
そんな2人の、周囲からみれば月9史上おそらく最も低い恋愛のハードルの前でつまづく恋愛模様は、
地方の若い人たちにどういう物語を供給しているのだろうか。
トレンディドラマの先駆的作品とも言われる『金曜日の妻たちへ』は、
横浜は東急田園都市線の閑静な郊外住宅地を舞台にしていたとのこと*3。
同じく横浜を舞台とする『デート』についてはもちろんこれからの話の展開にもよるのだけれど、
少なくともそれは、東京への移動を促すような「憧れ」の物語ではなかったりするのだろう。
『アメトーーク!』(1月22日)
小学校4年生まで時間を止めることができた。小沢「時間って、止めれたんですよ。でも、止めれるんだオレ、って思った日から止めれなくなった。っていうジレンマをこんな大舞台で言えてホントに今日はうれしい」/『アメトーーク!』1/22
— 飲用 (@inyou_te) 2015, 1月 24
人口減少社会が云々、みたいな話には、
空き家の問題が云々、みたいな話もよくくっついてくる。
人口が減ると空き家がたくさん出てきていろいろ問題なので、
新築住宅をこれまでのように見境なく増やすことを考え直して、
いま既に建っている住宅をうまい具合にやりくりしていくことも検討しましょう、
というようなことが言われたりする。
つまり、住宅のフローを増やすことから住宅のストックを活用することへの転換が必要、
みたいなことが言われたりする。
フローからストックへ。
この見立ては、テレビでの芸人の活躍の仕方にも援用できるかもしれない。
たとえば、2000年代のお笑いブームは、さまざまな若手芸人を輩出した。
そしてそれは、
芸人をベルトコンベアで運ぶ『爆笑レッドカーペット』のセットが象徴していたように、
大量の芸人のフローを生み出した。
それに対して、たとえば去年の『THE MANZAI』で博多華丸・大吉が優勝したように、
あるいは、最近になってスピードワゴンの特に小沢にフォーカスが当たっているように、
2000年代にフローのなかにあった芸人に改めてスポットがあたる場面がよくみられる。
2000年にデビューしお笑いブームを通過した芸人を中心に集めた『ミレニアムズ』も、
そういう傾向のなかで捉えることができるかもしれない。
そうだとすれば、いまは2000年代に蓄積された芸人のストックが、
活用されている局面と言えるかもしれない。
フローからストックへ。
もちろん、かつてもストックは活用されていたし、今もフローはあるのだろうけれど、
傾向として、重心の移行として、そういう局面の変化を描くこともできるような気がする。
そのように考えると、多くの芸人をストックに送り込んだという意味で、
芸人を使い捨てる番組としてしばしば批判されてきた『エンタの神様』の見え方もまた、
ちがってくるのかもしれない。
見え方の変化が嫌悪感の払拭に必ずしもつながるわけではないのだとしても。
『めちゃ×2イケてるッ!』(1月24日)
中居「ホントでもね、森脇さんいなかったらホントにいまのSMAPないと思うんですよ」「あのスタートラインがなかったら、だっていまのボクたちいない。『スマスマ』がないです」/『めちゃイケ』
— 飲用 (@inyou_te) 2015, 1月 24
で、2000年代だけではなくて、
1990年代のストックから改めてピックアップされる芸人もいたりして、
ヒロミとか森脇健児とかがそうだったりする。
そんな森脇は、「東京とオレ」というテーマで括れそうな話をテレビでよくする。
たとえば、京都から東京への新幹線での移動は必ずこだまに乗って、
途中でのぞみに抜かれたときには「自分の芸能界の人生を振り返る」*5、
というような、東京から地方に戻った者の悲哀を感じさせる話とか。
去年の『笑っていいとも!』が終わった日にも、
「オレの東京芸能はいいともで始まり、いいとも降板とともに終わった」
「笑っていいともは東京の原点、またいつか出るという夢はかなわなかった」*6
というようなことを森脇は自身のTwitterでつぶやいていたけれど、
そうなのだ、トレンディドラマは、
「何の根拠もないけど東京にいけば全てが叶う」ような物語を供給したかもしれないけれど、
実際に地方から上京してトレンディドラマが全盛だった時代に活躍した人間に待っていたのは、
必ずしも成功だけではなく、つまずきだったりもするのだ。
だけれど、トレンディドラマという言葉が死語になった後にも物語は続く。
東京から地方へとUターンした男の挫折や悲哀の物語には、
東京の芸能界の中心にいるようなSMAPに、自分たちの今を用意した存在として感謝されたりとか、
最近になって不思議なひねりが加えられるとともに、改めて光が当てられたりしている。
森脇は以前こんなことを言っていた。
「やっぱり、練習はウソつかない。努力はウソつかない。走った距離はウソつかない」
「それが明日への……明日へ……明日へ……負けイコール希望なんですよ」*7
自分の言葉にもつまずいてしまう、そんな地方出身者の少しひねりの加わった物語は、
なるほど、確かに「憧れ」にはならないかもしれないけれど、
誰かにとってのちょっとした「希望」ではあるのかもしれない。
だから、「森脇さんいなかったらホントにいまのSMAPない」
と言っていた本人がMCを務める番組で、
「箱の中身はなんでしょね」的な箱のなかにストックされている森脇をみていると、
ほら、あなたの心にもほのかに希望の火が灯る……かもしれない*8。
*2:『デート~恋とはどんなものかしら~』 - とれたてフジテレビ
*7:『体当たり国語バラエティ 大変よくできました』MBS 2013年3月26日
*8:ちなみにこの後、特に答え合わせがされることもなく、スタジオの奥にフローされます。『ナカイの窓SP』2014年10月8日