言葉を隠す、言葉で隠す:先週みたテレビ(2月19日~25日)

「朝ご飯」という言葉を隠されていた森三中・黒沢

 言葉は世界を区切る。言葉を知ることは、新しい世界の区切り方、つまり新しい世界のかたちを知るということ。言葉を知らないことは、あり得たかもしれない世界のかたちを知らないということ。

 先週20日(朝日放送)の『激レアさんを連れてきた。』での話。森三中・黒沢は中学1年生になるまで「朝ご飯」を知らなかった。黒沢家の朝は毎日、両親はコーヒー1杯、黒沢はスポロン1本だった。

 

  f:id:onodan:20180302140734j:plain

 

 中1で初めて「朝ご飯」という言葉を知ったときは、なんて「卑しい人間」がいるんだと思った。なぜなら黒沢にとって、食とは性のことだから。朝から性欲を貪っているだなんて。「言うなれば私からしたら(朝ご飯を食べている人は)性欲むき出しなわけですよ」。

 「朝ご飯」という言葉を知った黒沢は、「朝ご飯っていうのが食べたい」と母親に頼んだ。すると母親は「バレた?」と笑った。

 そんな黒沢のエピソードを聞いたオードリー・若林は言う。

「これ怖いですよ、言葉を隠すって」

 言葉は世界を区切る。言葉を知ることは、新しい世界のかたちを知るということ。言葉を知らないということは、あり得たかもしれない世界のかたちを知らないということ。しかし、そもそも言葉を知らなければ、あり得たかもしれない世界のかたちを知らないということすら、知ることができない。

 言葉を隠すのは怖いこと。怖いということすら気づくことができない怖いこと。

 

就活生のような言葉で隠された花田優一の何か

  言葉は世界を区切る。言葉の使い方によっては、世界のかたちをちがって見せることができる。だから言葉を隠すことで世界から何かを隠すだけではなく、言葉を使うことで世界から何かを隠すこともできる。

 たとえば、先週25日の『おしゃれイズム』。ゲストの花田優一(貴乃花親方を父親にもつ靴職人)が次のように「信念」を語るとき、そこには別の「本心」が隠されていると感じずにはいられない。

「ボクがテレビとかラジオとかに出ること自体、(父親は)まったくいい感情をもってない。職人が表舞台に立つ必要がどこにある、みたいな。ただボクにも信念があって、いまの時代、昔みたいに人口が増えてるわけでもないし、若者の人たちがひとつでもね、就職活動したいって思ったときに企業じゃなくて、職人になろうかなとか、選択肢が増えるためにやってるんですって言ってるんですけど」

 いや、そのようなことを本当に思っているのかもしれないし、そもそもテレビに出る動機がどのようなものであろうと別にいいわけだし、こちらも「本心」に興味はないし、テレビ越しに「本心」がわかるなんてことも思っていないのだけれど、ホントの動機はそこじゃないよね、みたいな邪推を呼び込む言葉は隠すという選択肢は、若者の就職の選択肢を増やす前に考えておいてもいいのではないか。

 端的に言えば、面接試験で就活生が話す志望動機のようなことを聞かされてもこちらとしては。

 

滝沢カレンを隠す言葉

 テレビには、おもしろい内容を話す人というよりも、おもしろい形式で話す人、つまり話し方がおもしろい人が定期的に現れる。たとえば、DAIGO、ローラ、渡部陽一加藤一二三滝沢カレン

 そう、滝沢カレン

 先週みた滝沢カレンで印象的だったのは、21日放送『NHK高校講座 ベーシック国語』の最終回のエンディングで、生徒役を1年間務めてきた滝沢が、先生役の国語学者金田一秀穂とともに、目をうるませていたこと。これは滝沢カレンというか金田一秀穂の印象的なシーンだったかもしれないけれど。

金田一「いつでも戻ってきてください。待ってます(泣)」

滝沢「こっちも、待ってます(泣)」

  

  f:id:onodan:20180302142109j:plain

   f:id:onodan:20180302142231j:plain

 

 滝沢カレンのおもしろさを最初に見つけたのがどの番組なのかはよく知らないけれど、少なくともそれを広めたのは『全力!脱力タイムズ』のナレーションだろう。

 けれどその後、滝沢をフィーチャーするバラエティ番組では、そのおもしろさがあまり発揮されていないことも多いように思う。滝沢が使う引っかかる一つひとつの言葉に周囲の芸人がツッコミを入れていき、滝沢の話が個々の語にブツ切りにされていくからだ。同じようなことは、『アメトーーク!』で出川哲朗の言い間違いや噛んだことにいちいちツッコミが入るときにもときどき思う。

 『脱力タイムズ』の滝沢カレンがおもしろいのは、ナレーションという形式をとることで(ワイプのなかでのツッコミが入りつつも)滝沢に一方的に話を続けさせるからだろう。ツッコミの言葉で区切らないからだろう。

 少し前の『行列のできる法律相談所』(2月4日放送)での話になるけれど、Eテレでお互いに「待ってます」状態だった2人は、滝沢が金田一を「尊敬する人」として紹介するというかたちで、日テレで(収録の順序はわからないけれどたぶん)再会していた。そこで滝沢は金田一にこんな「ポエム」を送っていた。

「先生に出会ったのはあの日。あの莫大なNHKというものが私たちを出会わせてくれたのだから。先生が出会えたことが意味だったのかもしれない。それが出会いだったのかもしれない」

  言葉は世界を区切る。言葉は世界を区切り、整理し、ここに「おもしろい」がありますよ、とマークをつけたりもする。その操作はときにツッコミと呼ばれる。だがそのツッコミの言葉が、別様にあり得たかもしれない「おもしろい」をときに隠すこともある。

 言葉は世界を区切る。けれど滝沢カレンの言葉は、どのように世界を区切っているのか、しばしばよくわからない。世界は混沌とする。されど世界は混沌とされた状態で放り出されたままでも、ときに「おもしろい」。