テレビ日記・追記(3月3日~9日)

 ウェブ媒体で書かせてもらっている記事の、分量的に入らなかったり、文脈的に収まらなかったりした文章を掲載するエントリー。先週からちょっとやっている。

 

 今回は、みやぞんに関する話の続き。

 

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みやぞん「僕、考え方で全部クリアしてしまうんで」

 コップに水が半分入っています。「まだ半分も残っている」と考えるか、「もう半分しか残っていない」と考えるか、あなたはどちらのタイプですか。こういう二項対立の問いかけは大抵、2つのうちどちらかに価値があることを前提に持ち出される。「もう半分しか残っていない」という考え方はやめましょう、「まだ半分残っている」とみたいにポジティブに捉えるのが人生を楽しく生きるコツです、成功する秘訣です、という具合に。――と、そんなことを考えている時点で、「もう半分しか」陣営の人間に括られてしまうわけだけれど。レッツ、ポジティブ・シンキング

 

 さて、いわゆる「天然」と呼ばれる芸能人のひとりであるところのANZEN漫才・みやぞん。9日放送の『サワコの朝』(TBS系)に出演し、こんなことを話していた。

 

「物事起きたことをすべてプラスにもっていく。(スリに遭ったとしても)お金をぞんざいに扱ってたからこういうことが起きたのかもしれない、じゃあお金に感謝するか(と考える)。全部ただじゃ終わりませんね。損しただけじゃ終わりたくないというか。すべてプラスに変えていきたい」

 

 こんなプラス思考のみやぞんは、おそらく「まだ半分も残っている」とストレートに答えるタイプの人なのだろう。ただし、ただの「ポジティブな人」とは違うような気もする。どういうことかと言うと、「コップに水が……」みたいな話を聞いて「まだ半分も残っている」と考えなきゃいけないと反省した人と、みやぞんの間には、ものすごく深い溝があるというか。同じポジティブでも人間としてのフォーマットが違うというか。

 

 番組の中盤、「失敗はしたことないの?」と阿川佐和子に聞かれたみやぞんは、こんな話をしていた。失敗はしたことがない、なぜなら失敗してもそれを失敗と思わないから、失敗からはこの方法では失敗するということが学べる、あとは前を向くだけだ。これを聞いた阿川は「何か嫌なことはないの?」と質問を重ねた。みやぞんは答える。

 

「僕、考え方で全部クリアしてしまうんで。たとえば、嫌な上司とかいたとしても、想像するわけですよね。僕の人生という舞台があったとしたら、最後のエンディングに、嫌な人が『みやぞんをいじめる上司役でしたー』って笑顔で出てくるんですよ」


 その嫌な上司は、実は役者なのかもしれない。自分の心を鍛えるために、何か嫌なことを言われても「ありがとうございます!」「もっと怒ってください!」と言えるようになるために、自分の人生という舞台に役者として登場した人なのかもしれない。だから最後、人生のカーテンコールで嫌な上司役の人も含めてみんなで肩を組んで「ありがとうございましたー!」と頭を下げる、そんなふうに考えると、次の日からその上司にも「ありがとう」と言える――。

 

 さて、このみやぞんの話、まるでウサギにもアヒルにも見える絵のようだ。人生を前向きに生きていくための秘訣を語っているようにも聞こえるし、初任者研修の洗礼を受けたブラック企業の社員の話のようにも聞こえる。初任者研修の講師の話のようにも聞こえる。

 

 ただ、この言葉はみやぞんの言葉である。ブラック企業の社員の言葉ではない。反省に基づきポジティブになる人は、それまでの自分の否定から入るわけだから、結局はネガティブ・シンキングを経由する。ネガティブをベースにポジティブを積み上げる。対してみやぞんは、ネガティブを経由しないポジティブであるように見える。その意味で、表面上は同じ「ポジティブな人」であったとしても、ベースとなる人間のフォーマットが根本的に違うのではないか。

 

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 番組ではこんな逸話も語られた。テニス部だったみやぞんは、中2で足を複雑骨折した。その骨折の瞬間、急に冷静になり、ギターを弾こうと思ったらしい。なるほど。で、みやぞんは実際にギターを練習し始めた。我流で。

 

「適当にですよ。なんかこうやって(ギターを)持って、なんだこの音、なんだこれ、なんだこれ、っていじってたんです。で、このAマイナーっていうんですか。この音はボクが自分で開発したと思ってたんですね」

 

 Aマイナーを教わらずに開発した(と勘違いしていた)みやぞんは、おそらくポジティブ・シンキングを自分で開発し、我流で構築している。

 

 みやぞんは「天然」である。天然ボケという意味で「天然」なだけではない。たぶん「天然」もののポジティブ・シンキングでもある。「天然」にはかなわない、というお話。