テレビ日記・追記(2月24日~3月2日)

 ウェブ媒体で記事を書かせてもらっているのだけれど、ときどき、分量的に入らなかった文章とか、文脈的に収まらなかった文章とかが出てくる。もったいないので、そういう文章を追記としてこちらに載せることにする。毎回やるわけではないけれど、たまにやると思う。たぶん。

 

 ということで今回はこちらの記事の落ち穂拾い。シチューやカレーが一晩おくとまろやかな味になるように、人間も嫌なことがあったらワインを飲んで一晩寝れば気持ちがマイルドになるよ、時間も調味料だよ、みたいな平野レミの言葉から派生した話の続き。

 

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テロップ「まもなく主演女優賞」

 3月1日、『第42回日本アカデミー賞授賞式』(日本テレビ系)が放送された。

 

 役所広司舘ひろし岡田准一などに挟まれてレッドカーペットを歩く『カメラを止めるな』の主演・濱津隆之。「アドリブで蹴ってすみませんでした」と謝る真木よう子と、「嬉しかったです」と応える松坂桃李。マイクを持ったときの受け答えがどうしてもバラエティ的になってしまう松岡茉優。いないけど話題になる木村拓哉リリー・フランキーの「希林さん来てるじゃんと思ったら、細野晴臣さんでした」。大胆衣装の深田恭子。カメラがその姿を足元からパンナップで映す深田恭子。しかし衣装について誰からも何も言及されない深田恭子深田恭子。などなど、見どころはいくつかあった。

 

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 だが、なんというか。たとえば、最優秀助演男優賞松坂桃李が発表された瞬間、画面の右上に出る「続いて…新人俳優賞」のテロップ。最優秀助演女優賞を受賞した樹木希林の写真が画面に映った途端に「このあと…激戦の最優秀主演男優賞」。最優秀主演男優賞の役所広司がスピーチしている最中に「続いて…監督賞&混戦の主演女優賞」。

 

 終始、最優秀賞が発表されるやいなや、このあとは、続いては、である。最優秀賞を受賞した俳優の表情を画面が捉えるなか、それはもう過去の人の終わった話題であるかのように、同じ画面でテロップが次を予告するのである。

 

 最優秀監督賞の発表の際、プレゼンターとして是枝裕和監督が壇上にあがり、次のようなことを言っていた。

 

「衣装という部門がこのアカデミー賞にはなくてですね。いろんな作品で映るもののなかで、とても大事な部門だと思っているんですけれども。衣装デザインという部門を、ぜひ新しく作っていただければなというのを」

 

 だが、こんな話の最中も、画面の右上には「まもなく主演女優賞」である。というか、監督賞に至っては、最優秀賞が発表される前から次の俳優関係の賞の予告がなされているのだ。番組上、唯一スタッフ側にフォーカスがあたる監督賞にしてこの扱い。いわんや、スタッフ関係の新たな部門の扱いをや。

 

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 いつからこういう演出なのかは知らない。結構前からのような気もする。けど、『1周回って知らない話』じゃないのだから。

 

 カレーみたいに一晩寝かせる必要はない。ほんの数分間。最優秀賞の受賞者がスピーチをしている間はその人だけにフォーカスをあてるというのは、難しいのだろうか。その時間が、受賞者の表情や言葉の味わいを、より深める調味料になると思うのだけれど。

 

(追記の追記 3/22)

 

 というようなことを思ったのだけれど、思い返してみると、樹木希林はかつてこんなことも話していたのだった。

 

「私は映画は時間がかかるから嫌で、テレビは消えちゃうからいいなぁって」*1

 

 もらえるものはもらう。けれど、すぐに流れ去ってしまうのがいい。テレビは消えちゃうからむしろいい。そんな風にも、樹木なら思ったかもしれない。