司会者について:先週みたテレビ(4月17日~23日)

今夜くらべてみましたSP』(4月19日)

 

 アナウンサーの仕事の主軸がニュースを伝えることだとして、

 では、アナウンサーはバラエティ番組で何をしているのか。

 

 日テレの最年長・最長キャリアのアナウンサーであるところの井田由美アナが、

 先週の『今夜くらべてみましたSP』で言っていたことをふまえると、

 上の問いに対する答えは次のようになるだろう。

 アナウンサーは「おもしろい人からおもしろい話を引き出すこと」をしている。

 

 他方、かつて井田アナと同じ日テレに所属し、現在はフリーで活躍している夏目三久

 いまや報道番組やバラエティ番組などで司会の役割を務めることも多い。

 そんな夏目は先週の『サワコの朝』で、

 アナウンサーがしていることについて次のように話していた。

 

夏目「アナウンサーというのは、テレビに出られる唯一の黒子です、というふうに(日テレで)教えられたんですね。ですからそれは、視聴者の方と専門家だったり、テレビの世界の中をつなぐ橋渡しの役であったり、あとは演者さんがたくさんいるときに、演者さんと製作者をつなぐのもアナウンサーだと。ですからもう、誰もみてないところでも、常に気をつかっていろんなところに目を配りなさい、という教育だったので」*1 

 

 日テレ勤続40年弱の局のアナウンサーから、

 日テレを退社しTBSの朝の顔となっているフリーのアナウンサーへ。

 日テレは新人アナウンサーの指導が特に厳しいらしいけれど、

 そして日テレ的アナウンサーの色というか匂いというか、

 そういうものに少し肌の合わない感じがあることもあるのだけれど、

 なるほどそこには元の職場を離れても、

 あるいは日テレ出身っぽさが薄いように思われる者であっても、

 日テレラインで受け継がれている何かがあるのかもしれない。

 

 アナウンサーとは「つなげる」仕事である。

 

 しかし、夏目は振り返る。

 1年目から当時の日テレの看板番組『おもいっきりテレビ』の担当となった夏目は、

 「つなげる」仕事ができなかった。

 緊張する。覚えたセリフをカメラの前で言う。もちろん伝わっている実感はない。

 しかし無事セリフを言い終わったことに安堵する。そこにあるのはただただ自己満足。

 

 そんな夏目に司会のみのもんたが声をかける。

 

夏目「『あのカメラの向こうには、キミのおじいちゃんがいる、おばあちゃんがいるんだよ。ひとりのために伝えなさい』って言ってくださって。『大勢の人がいるって思うからキミはいまとっても緊張してるんだよ』って。『身近な大切な人に伝えなさい』っていうふうに言っていただいて。いまでも毎日のように思い出します」*2

 

 大切な身内に語りかけるようにテレビの向こうに伝えなさい。

 そんなアドバイスを送ったみの自身が、

 テレビから距離を取ることになった決め手が実の身内の事件だったというのは、

 皮肉としか言いようがないわけだけれども、

 それはともかくとして、

 「身近な大切な人に伝えなさい」という助言を、

 夏目はいまも心につなぎ止めているという。

 

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 「つなげる」作業はときに過剰になる。いつまでも連鎖し続ける。

 ましてや、テレビは画面の前に同時に数百万、数千万の人がいるメディアである。

 一人ひとりは別の生活・人生を送る人であり、別の思想信条の持ち主である。

 そのすべての人に何らかのかたちで「つながって」しまう状態は、

 何をどのように伝えればよいのか、判断の留保へとつながる。

 だからテレビはしばしば中立を装いながら、

 何かを言っているようで何も言っていないような状態になるのだろう。

 「つながる」ことを志向した結果、「つながらなく」なるのだろう。

 

 他方で、大勢の人に伝えるのではなく、

 身近の大切な人に伝えなさい、というみののアドバイスは、

 ある意味で「つながり」に対する諦念である。

 親密な関係の外部とは「つながらない」状態を志向することである。

 ではそれは、アナウンサーないし司会者の、

 「つなげる」役割を自ら損なうことになるのか。

 

 フリーアナとして復帰した最初のレギュラー番組『怒り新党』で人気を博し、

 いまやニュースやバラエティなどでメイン司会を務めることも少なくない、

 そんな夏目三久の活躍をみると、どうやらそういうことではない。

 

 「つながり」をあるところで切ってしまうことで、

 むしろより多くの人に「つながる」。

 そういうことがおそらくある。

 

SmaSTATION!!』(4月22日)

 

 この4月に深夜帯からゴールデンタイムに進出し、

 生放送でお送りされる『ミになる図書館』の番宣で、

 先週はテレビ朝日の番組にいろいろ出ていた中居正広

 『スマステ』にも出演し、SMAP解散後、元メンバーと初の共演となった。

 そのオープニングで香取が言う。

 「(スタジオには)あの司会者が待っています」

 

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 中居の仕事の多くは司会者である。

 もちろん、司会者の役割は「つなげる」ことだ。

 で、ゲストとして出演した番組でも「つなげる」仕事、司会者をしていた。

 

 たとえば先週、

 中居は深夜の『アメトーーク!』の「ひとり暮らし長い芸人」にも出ていたけれど、

 そこではアンガールズ・田中のトーク中、次のようなやりとりがあった。

 他の出演者のコメントを少し省略して、再現してみる。

 

田中「ペットボトルとかいっぱい買って、時々オマケついてるじゃないですか」

中居「ハハハハ(笑)」

田中「オマケを集めるんですよ。で、5個ぐらいたまったときに、突如全部捨てるんです」

中居「気づいたんだよな」

田中「なんかこれ、なんなんだろうと思って(笑)。別に家族とかがワーって言うわけでもないし」

中居「でも一発目で捨てるのはアレだし」

 

 オチの前のフリの段階で誰よりも早く声をあげて笑い、

 「これはおもしろい話である」という入口をつくる。

 トークの次の展開を先回りし、話の道筋を示す(「気づいたんだよな」)。

 そしてオチを補強する情報を付け加える(「でも一発目で捨てるのはアレだし」)。

 

 ツイッターとかで中居が司会をする番組の書き起こしをしていて気づくのは、

 上記のやりとりのように、

 ゲストのトーク中、中居がゲストの話に本当に頻繁に口を挟んでいることだ。

 それは必ずしもツッコミではないし、ただの相槌でもガヤと呼ばれるものでもない。

 相手の話をカッコで補いながらドライブをかけるような、そういう介入。

 

 中居はそうやって、「おもしろい人のおもしろい話」を引き出しながら、

 テレビの内側と外側の人たちを、あるいはテレビの内側の人たちを、

 司会者として「つなげて」いると言えるのではないか。

 

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 そんな中居が次のような自分ルールを設けていることは有名な話だ。

 

中居「興味のある人をつくらないようにしてる。やりやすい人、好きな人、興味のある人をつくってしまうと、嫌いな人、あわない人、興味のない人がでてきてしまうから。そうなると、すごいしんどいから」*3

 

中居「苦手な人をつくりたくないから、やりやすい人もつくんないようにしてる。やりやすいなって思ってしまったら、ちがう人が来たときにやりにくいって感じちゃうから。苦手な人をつくらないために、好きな人もつくらない」*4

 

 興味のない人をつくらないために、興味のある人をつくらない。

 苦手な人をつくらないために、やりやすい人をつくらない。

 嫌いな人をつくらないために、好きな人をつくらない。

 つまり、誰とでも「つながる」ために、誰とも「つながらない」。

 

 ここにもみられる「つながり」の諦念が「つながり」を生むという司会者の逆説。

 

 司会者は何をしているのか。

 テレビ内外を「つなげる」ことをしている。が、しかし、

 一方で、親密な関係へと閉じるというかたちの切断があった。

 他方で、疎遠な関係へと閉じるというかたちの切断があった。

 司会者はある局面で「つながらない」ことへと転回することで、

 むしろテレビのこちら側への「つながり」を切り開いている。