変態について:先週みたテレビ(1月16日~22日)

『夜の芸能人 こんな時間に何してる!?』KTV(1月21日)

 

 「キャラ」は成長しないらしい。精神科医で批評家の斎藤環が言っていた。

 その話の理路をぼくはよく理解していないので、説明できないけど。

 

 でも確かに、テレビのなかの既に「キャラ」を立ちあげたタレントが、

 自分の「キャラ」を成長させながらキャリアを築いていく姿は、あまりみないような気もする。

 もちろん別の「キャラ」に乗り換えたりすることはある。

 たとえば、こりん星人が株式トレーダーになったり、焼肉店経営者になったり。

 獅子舞系ピン芸人大阪都構想を勉強したり、焼肉店経営者になったり。

 けれど大抵は乗り換えにうまくいかなくて、その「しくじり」を番組で話して、

 最後は家族の話でキレイにまとめることになる。

 人としての成長の話に収束することになる。

 

 いや、当人がどうこうというだけでなく、周囲が「キャラ」の成長を望まなかったりもする。

 「バカキャラ的な人って、ホント大変だと思う」とその理由をいろいろ解説する片桐仁に、

 ひと言「すごい話ながーい」と切り返す、そんな鈴木奈々に笑うぼくは、

 次もまた彼女に同じような切り返しを求めるだろう。

 さらに言えばその切り返しに、

 「ただのバカ」に収まらない「かしこさ」を積極的に読み込むことさえするだろう。

 それは、むしろ視聴者の側から、

 「バカ」な言動を単に立ち上げるだけでは不安定な「バカキャラ」を、

 「ホントはかしこい」の筋交いで補強する行為。

 

 今日も施工されているバカの壁

 またの名を、通販ラーメン事業の経営者のシステム。

 

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 なるほど、「キャラ」は成長しない。

 

 けれど、タレントに限らず誰もがまた、

 自分自身の「キャラ」づくりに大なり小なり勤しんでいる、と言われたりもする。

 これはdボタンを押して林家三平の座布団を奪っている場合ではないかもしれない*1

 

さんまのお笑い向上委員会』(1月21日)

 

 成長、というか芸人が向上を目指す番組で、

 クロちゃんが「鬼になりたい」とポエムを詠んでいた。

 鬼は人に蔑まれる、嫌がられる。けれど、優しいので攻撃はしない。

 「そんな鬼になりたいと、ボクはそっとうつむく」

 

 クロちゃんが語った鬼への変態(メタモルフォーゼ)願望*2

 

 他方でクロちゃんは、

 自転車で約2時間の道のりをこいで国立市のキャバクラに行く、とも話していた。

 六本木や新宿で1度負けて傷ついて国立市に流れ着いたキャバ嬢につけこめば、

 付き合えるかもしれない、という目算があるらしい*3

 

 なるほど、変態(メタモルフォーゼ)するクロちゃんは変態(アブノーマル)でもある。

 もしかするとそんなクロちゃんにとって、

 約2時間のサイクリングは、自身を変態に変態させる時間なのかもしれない。

 変態後のクロちゃんがなっているもの、それが優しい鬼かどうかはともかくとして、

 周囲は目を伏せて、やっぱり「そっとうつむいて」しまうのかもしれない。

 

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 と、クロちゃんの「キャラ」と変態を結びつけると、

 ネガティブなイメージが先行しそうな気もする。

 

 けれど、タモリもまたかつて『ヨルタモリ』で、

 自らを「近藤さん」という別の人格に変態させつつ言っていた。

 「変態っていうのはクリエイティブなことですよ」*4

 「人間誰だって変態ですよ」*5

 

マツコ&有吉の怒り新党』(1月18日)

 

 あるいは、先週18日の『怒り新党』。

 最初に牛の乳から牛乳を飲んだ人は周りから変態だと思われただろう、みたいな話から、

 「変態が時代をつくった」という結論に達した有吉は、次のように言う。

 

「人生観っていうと重い感じするけど、別にそんなことはないっていうことなんですよ。毎年変わるんだから。『5年前と言ってることちがわない?』(とか指摘されても) 『当たり前ですよ』(としか)」*6

 

 5年どころではない。2時間にも及ばない。この数分後に有吉は、

 「ヒッチハイクで半年世界各国をみたけれど、人生観は変わってない」*7

 みたいなことを言ってたりするんだ。

 

 もしくは、先週18日の『5時に夢中!』。

 「億稼ぐ男は1月に丸1日かけて1年の計画を立てる」みたいな話題で、

 コメントを振られた美保純は次のように言う。

 

「いまの自分が理解されるのは3年後って考えてるので、いますごく世間から浮いたとしても全然平気なんですよ。たとえばいま私がすごい料理好きになったりとかしても、料理好きの美保純だねってわかるのは3年後なんですよ。生きてるのにズレがあるから、いつも何も考えてない」*8

 

 意識しようとしまいと、

 私は5年前と言うことが変わっているし、

 3年前の料理好きの私はもういまの私ではない。

 他人が理解する私はいつだって遅れてやってくる。

 

 「キャラ」は成長しないかもしれない。

 けれど、そんな「キャラ」の動向とは無関係に訪れる、私の静かな変態。

 

 クロちゃんを手引きにたどり着いた、成長とは異なる道。

 この変態というサイクリングロード。